江戸時代が終わり新時代の到来から30年たった日本。元士族の娘・千鶴は弟とともに芝居見物の後夜道を歩いているところに世間を騒がせている辻斬りに遭遇、それをきっかけに2人の妖怪と再会し幼少の頃の閉ざされていた記憶が蘇ることになる。
2人の妖は実は幼い頃千鶴と出会っており、それは千鶴が封印した悲しい記憶も絡んでいるというのが最初のエピソード。以後は彼らと千鶴、周囲の人間が絡むちょっとせつなく悲しく、でもハートフルな人間ドラマが展開されていきます。一話完結というほど区切られていませんが短いエピソードの連続という構成。人の心の闇をテーマにしていますがほっとする終わり方なので読後感がかなり良いです。明治中期という時代背景や世相をうまくドラマに絡めているところも特徴。
主人公はいうに及ばず父母や弟、主2人の妖怪、主人公を慕う男の子など登場する人物たちがほとんど好ましい人物像。特に父親の堅い家柄の割りに柔軟な思考の持ち主かつ器の広さ、主人公もその家庭環境からか面倒見が良いというか視野が広い気質が印象的でした。とはいえ出来た部分、光の部分のみならず闇の部分もきっちりと描かれていてかつ気が滅入る終わり方にしないところが絶妙。
絵はかなり高水準、耽美系というか実写系の絵柄で描きこみが多いのですが落ち着いた線運びと整理された画面構成でとても読みやすいです。
及川七生
花とゆめコミックス全6巻 / 白泉社
ジャンル:少女・オカルト・ドラマ / 好み度:★★★★★