水槽の街・虫の味がする・ジゼルとエステル・ロズリーヌフラウの肖像・淑女はドレスに着替えない・少女というより痴女だった・友達だなんて思っていないんだ・芹沢くんと工藤くんを収録した著者の短編集。
文学的エロスとか思春期の妄想描写とか。心にしまっとくタイプの微妙な心情の表現が秀逸。理解するのではなく感じるタイプの物語というべきか。緻密な線と半端ない描き込み。発表年代に幅があるので正直、質もバラバラですが画面的に見ごたえのある作品が多いですね。
「水槽の街」
かつて浄水施設として作られた街。家族が街の底に沈んだ女性とその女性を慕う少年の話。
「虫の味がする」
虫料理が大好きと噂される女性とその女性を仄かに慕う男性。男性は件の女性の家に食事をご馳走になることに。虫と女性の妄想をする男性の描写が面白い。サバっとした女性のキャラもなんか好き。
「ジゼルとエステル」
シャム双生児の姉妹。互いが互いだけだった彼女たちの前に一人の男子が現れたことによりその形は変わる。まーいっしょにいると口に出して言ってる側があっさり向こうにいってしまうというのはままあるわな。
「ロズリーヌフラウの肖像」
絵描きとそのパトロンの女性の話。中世のねっとりした嗜好と恋愛の体現、そしてそれらを昇華して芸術が綴られる、のか?
「淑女はドレスに着替えない」
とあるイギリスのカフェ。常連の爺たちと孫の少年。少年はそばかすで直毛の金髪のウェイトレスをブスと連呼するが部分部分で気になるご様子。性質の悪い爺たちは少年に誘導尋問してそのウェイトレスに告白させるという話。軽快でノリのよい下品な会話が小気味良し。若輩ゆえに老齢に弄られる少年よ、精進あれ(笑)
「少女というより痴女だった」
一人暮らしの少女はレンタル屋に勤める女性にご執心。今日も今日とてレンタル屋に行くと店先で親父と遭遇。娘離れができていない親父と娘の激しい衝突、そして彼女たちの本来の姿が現れて・・・。出オチなんかな、これ。親父のキャラが見目も中身もものすごく濃いきちんとフォローしてるあたりは好印象なんだけどね。
「友達だなんて思っていないんだ」
少年と少年の他愛のないやりとり。友情ではないそれ以外の感情。現実に心と体の性が違う人には一度はありそうなせつないお話。
鈴木健也
ビームコミックス全1巻 / エンターブレイン
ジャンル:青年 / 好み度:★★★★☆