どこか生き急いでいる少女じゅりあは妖精の王となる天野王子と結ばれた。そして王子は妖精王となり、じゅりあは胎内に王子の子供を宿すが、突然現れた妖精の騎士クー・フー・リンが王子と子供を連れ去ってしまう。残されたじゅりあは彼女の味方である妖精の力を借りて王子と赤ん坊をとりもどす決意をする。
作者初の青年誌連載の作品。最初から最後まで煙に巻かれたようなそんな感じのする作品でした。妖精の悪戯・仕業といった、理屈では説明のつかない不条理な事象に振り回される人々の描写が生々しいです。話の筋は正直、わかりづらいけれど主人公じゅりあが王子を思う心情はひしと伝わってきます。メンタル面のみならず肉体的なつながりも望むところがリアルというか。単に青年誌連載だからその要素があったというのもあるのでしょうが。作者がこれだというテーマを提示するというより読者にこの作品の意味をゆだねるような構成になっているように思います。もちろん作者が表現したいテーマもあると思いますが。個人的には、人生のうちで迷ったり突然壁にぶつかってもしっかりした想いがあればうまくやっていけるものだということを感じました。物語の進行が、結論に向かってというより積んではくずすということを繰り返す人の一生を表現しているような気がしてなりません。
じゅりあの娘が、じゅりあに関わった人々がどうなったかを見ていくラストのエピソードで、妖精に決してかなわない望みをもらった人とそうでない人のその後が実に対照的で印象的でした。
5巻に同時収録された短編「暗闇坂」は人間関係がからみあっててけっこう面白かったです。登場人物がみんな一癖あるのが特徴。
高河ゆん
講談社漫画文庫/全4巻/講談社
ジャンル:青年・恋愛・ダークファンタジー / 好み度:★★★★★
同時収録:妖精事件1992/暗闇坂