無敵・きみはスター・不呪姫と檻の塔を収録した短編集。サスペンスホラー・苦くも静謐な青春の記憶・SF人間ドラマと「運命の女の子」をベクトルの違う解釈・設定で描く。
「無敵」は大量殺人犯の少女と女性刑事の取り調べ室での対峙を描いた話。怖れもなく友人・ホームレス・家族・知人の青年を殺していった少女と取り調べる女性刑事の会話と並行して少女の所業が再現ドラマのように描かれていく構成。事実か回想か刑事の読み上げる調書の内容を単に描いたものか・・まあ事実なのだろう。落ち着き払い淡々と問いに対し否定しつづけ端々で唐突な行動をするサイコパスっぽい少女の仕草にある種のおびえを感じる刑事。純文学系サスペンスの短編を見るような内容であり時事を元ネタに真逆の設定を施した話でもある模様。最もインパクトがあった話。
きみはスターは、高校の英語劇部の男女3人と卒業後の顛末を描いた話。平凡な容姿と聡明さと高い演技力を持つ女子、その女子に好意を持つ美形男子、美人で人当たりのよい女子、英語劇部の3人の高校生活の一角を回想という形で描く。三角関係・・になるんだろうか、一捻り有りちょっと懐かしいテイストの少女漫画を思い出す叙情的な雰囲気が印象的な構成。相手の自分に向ける感情の理由、自分が相手に向ける感情の容。同じ言葉で言い表される感情なのに合わすことができない。結末が一番心に残る話だった。
不呪姫と檻の塔は、試練の後に特殊な能力を得る「呪い」が一般化した現代社会で唯一「呪い」を持たない少女と少女を慕う男子と「呪い」を授与する役割の男性の話、かな。「呪い」の設定に具体的な例がなく漠然としていて不明瞭ではあるが、ともかく学生のヒロインはそれを持たないためにハブられている。だが味方の男子もいる。そんな中、人々に「呪い」を授与する役割の男性が反乱を起こす、という流れ。命に意味はあるのか、他が持つものを持たない自分に意味はあるのか。登場人物各々が各々の存在意義と望みを持って行動しそれが相互干渉して物語が組み上がるというかんじ。一番ストーリー性がある話だったかな。面白かった。
ヤマシタトモコ
アフタヌーンKC全1巻 / 講談社
ジャンル:青年・青春・ドラマ・サスペンス / 好み度:★★★★★