日々をぼんやりと過ごす日比野光は転校生の一社高蔵の登場で、自分の持つ特殊な能力の存在を知る。そして高蔵は光の能力を使い、正義を掲げ捩れた世の中を修正しようと持ちかける。
主人公は、ぼんやりと日常を生きる冴えない男子中学生。とはいえ同年代の人間との交流が不得手なタイプというわけでもなく不良タイプ?な男子たちや幼馴染の少女といった友人はいるし密かに片思いをしている女の子もいる。そんな中、転校してきた男子学生は不遜な態度をとる人物だった。
転校生は、諍いになった主人公の友人を机で殴ろうとするが突然机の脚が折れる。それがきっかけで事態は収拾したのだが、転校生は折れた脚を吟味し、主人公も気がつかなかった特殊な能力が原因だと知るや、ある自分の望みに主人公をつきあわせようとする。
主人公の能力は瞬時に物体を別の場所に移動させるいわゆる瞬間移動能力に近いもののよう。転校生は、罪悪がまかりとおっている世界を正すため主人公の力を利用しようと、滔々とした言葉で主人公を自分の道に誘う。一方主人公は自分の能力に関しての考察には興味を示すものの転校生の突拍子もない能力の利用の提案に乗り気でない。しかし能力が原因であろう状況で片恋の少女の友達が死んでしまう事件がきっかけで、ずるずると転校生の言うままにつきあうことに・・という流れ。
転校生は、一見某キラさんを思い出させる潔癖な思想を持つようですが、実質はキラさんとはかなり違うような。手始めに行う「制裁」の内容が、自分が経験した不幸から世界の不条理を憎み始めたような印象だからか。大仰で絶対的な正論のように語るけど根底は世界が自分に優しくないなら世界を変えちゃおうみたいな望み。未成熟のこどもが使う正義の理論に近い。
方向性はともかく自分の信念をきっちり言う転校生に反発や戸惑いを持ちつつも、彼の言葉にひっぱられていく主人公のゆるゆるな自我(唯一能力のことを知る人間ということもあるんだろうけど)とか。
自分がしでかしたことにおののく一方でそれが片思いの少女でなかったことを喜びその感情にまた落ち込む主人公の心理描写とか。未分化で手前勝手な精神状態がすんごいリアル。
転校生に誘われる状況、片思いの子に頼られる状況、そして自分の行動が思いもよらない現実を招く状況、深みにはまるとはことことかといわんばかりの展開に主人公がどう行動するのかが物語の肝か。
主人公の超能力以外大仰な設定でないところがかえって現実的で、壮大な設定の著者の他作品に存在する不条理さは確実に鎮座しているような。個人的に欝になりそうな話なんですが続きもかなり気になるタイトル。
表紙カバーのタイトル活字部分のくり抜き装丁は、やっぱり設定とリンクしてるのかな。
鬼頭莫宏
アフタヌーンKC全5巻 / 講談社
ジャンル:青年・ヒューマンドラマ / 好み度:★★★★☆