五色の舟 津原泰水・近藤ようこ 


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太平洋戦争時の日本。見世物小屋で生計を立てる5人の疑似家族の物語。
先天的あるいは後天的に不具となった男女が家族として生きている。
かつて女形だったが脱疽で両足を切った男を父親とし、
彼と彼が出会い家族として迎えた、背丈が子供だが力が強い小さな巨人、
膝が逆になっている女性、腕がなく肩に直接掌があり耳も聞こえないが読心術
を持ち両手がない人と同じく足を手のように器用に使う少年、
シャム双生児の片方の生き残りの少女という4人が舟で暮らす。
物語の時代背景や彼らの状況から悲哀的な話かと思いきやそんなことはない。
見世物小屋という生きる術があるしその仕事は彼らにとって辛いことでもなく
実入りも生きるには十分あるし差別を受けているわけでも家族間が険悪というものでもない。
話の本題は、父が欲している「件」という妖怪のようだ。
くだんの噂を聞き父は家族を連れてくだんを購入しようとするも、
すでに父が懇意にしている男性医師と軍が引き取った直後だった。
この話のくだんは伝承にあるとおり牛の姿に人の顔をし言葉を解し、未来が見えて
それを人に伝えるモノだった。そして件と接触する機会を得た家族は、
件の導きにより並行世界に行くことにというながれ。
いわゆるパラレルワールドへ行く話であるがそれに至る話の切り口というか
展開が、なかなか見られない幻想的というか文学的な構成であるのに現実的でもある。
雰囲気で乗り切るのではなく階段を踏みしめて進むがごとくきちんとしている印象。
特に並行世界の移動を読み手に気付かせるその演出が見事だと感じた。

原作:津原泰水 / 漫画:近藤ようこ
ビームコミックス全1巻 / 講談社
ジャンル:青年・ドラマ / 好み度:★★★★☆