侵触プラトニック きづきあきら

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不思議な感覚のセンシティブなストーリーを集めた短編集。「シンクロ」「SWEET SCAP」「ココロSOS」「SweetCurse」「死の聲」収録。かきおろしは「未知との遭遇ファミレス編」
どれも不思議要素を含めたネタとしてはありがちな設定ともとれるものの、切り口の鋭い人間描写と物寂しい中にすがすがしさを感じるラストが見所の物語ばかりでした。

「シンクロ~願いをかなえたら」
好きな相手への告白に躊躇する少年の前に現れたのは2人の小さな魔女。彼女たちは少年の望みを何でもかなえると言う。自分が好きな少女と自分を好きな少女、双方の間で揺れ動く少年が望んだ結末とは。
優柔不断というかヘタレ系少年の望みを2人の魔女が叶えていくうちに少年の望みは形をゆがめていくという展開。悪魔の契約には裏があるってパターンと言っていいのかな。
2人の魔女が各々、少年の相手候補である2人の少女1人ずつに肩入れ(・・というかほぼ自分本位の賭けの対象みたいな)しどちらの女の子が少年の相手になるかと競い合うあたりから話がずれはじめ、最後の最後で少年が決めた選択とはというラスト。少年の最後の言葉が印象的。
他の作品に比べ普通の物語の構成というか一般向けなタイトルだったような気がします。

「SWEET SCAP」
打ち捨てられた少女型ロボットを拾った少女とロボットの世話を頼まれた青年と少女ロボットの物語。ちょっと痛くそしてせつない雰囲気の話。
ダッチワイフのように改造使用された形跡があったロボットを通して綴られる少女と青年の心情描写。命ってなんだろとか自分の気持ちや信条とか現状を見つめ受け入れるとか、生きてると一度は考えるであろう疑問や葛藤がリアルに表現されています。身内のように親しんだ対象に最後のなぐさめを、と思うは人間ゆえだからなのか。

「ココロSOS」
心の弱い人に悩み事ができるとされる、喋るデキモノ「ヌース」をめぐるお話。
ヌースが出来困惑する少女は、ヌースをよく知る少年に相談を持ちかける。ヌース出来た原因を探るためヌースの「海にいく」という言葉から2人は海を目指し旅行することになるが・・。
まあその旅行で少女が自覚なく抱えていたものがわかっていき物語としては先が見える展開なのですが、ヌースの設定や少女のヌースに対する考えと行動の変化が見所。ラストも清清しくて好きだなあ。

「SweetCurse」
過疎の村から出たいということだけで目的も持たず東京に行く予定の少年と村に残る少女の物語。
確固たる望みを持たず都会に出る少年、村に残り外に出る者に静かな憤りを感じる少女。性交渉も持った彼らの、別離間際の言葉のやりとり。恋愛ものというよりほの昏い人間ドラマのようでした。
互いを切れ味の悪い刃で傷付けあっているような会話がちょっと怖かった。肉体的にじゃなくて精神的に、あからさまではなくじわっと、切れ味が悪いということは傷は浅くともその痛みは鋭利なものより強い、そんなイメージ。

「死の聲」
世界末期をモチーフとした抽象的な物語。世紀末にはよく見られたモチーフだったっけ。ちょっと同人誌っぽいモノローグが多いのが特徴。ちょっと心が沈む話かも。命の終焉と生の意味がテーマだから当然か。

「未知との遭遇ファミレス編」
星新一みたいなSFショートショート。唐突な始まりと気の利いたオチが絶妙。こういうショートショート描ける人は尊敬。

きづきあきら
ガムコミックスプラス全1巻 / ワニブックス
ジャンル:青年・ドラマ / 好み度:★★★☆☆

タイトルをネット検索してみると「侵食」や「侵蝕」の誤字が多い気がします。Amazonの表記が間違っているからか。正確には「侵触」です。