「てんから」「エンセル」「月とニット」「グリーンワークス」「CAR」を収録した不思議でロマンチックな短編集。寓話のような状況設定で人間の様々な感情や思いが穏やかにゆるやかにそして鮮明に描かれています。設定が凝っているけどするっと話に入り込めるし、水が流れるようにさらっとしたでも深い心理描写が特徴。
「てんから」
周囲の合併でもともと田舎だったのがさらに孤立した形の、小さな町では、不可思議な現象、特に天から個々人の思い出の品が降ってくるという現象が起こる。天からの贈り物を巡る人々のドラマ。御伽噺のような不思議な現象を通して主人公の青年、都会から家の仕事を継ぎに帰ってきた女性などの町の住人の、過去の思い出とそれに追随する思い、未来への意欲や不安などが描かれたお話。
「エンセル」
サイバー墓地で成功した会社の青年社長が会議中に突然死した。そして彼は自分が組み上げたサイバー墓地で死人と墓守の女性と出会う。組んだ覚えのない墓守のプログラムに驚く青年だが。死者の話ですがほっこりした話。ある意味夢のようなというべきか。
「月とニット」
月でしか作れない羊毛でニット服を作る青年とモードの申し子の女性の話。まんまSF設定なのにファンタジーな雰囲気の話。服のデザインが綺麗でした。
「グリーンワークス」
特殊な植物を使って諜報を行う組織の青年と、その植物を先天的に骨抜きにしてしまう女の子の話。サスペンスに見せかけて実はほのぼのな話。オチが優しくて好きだな。
「CAR」
車好きな青年と車の話。最後で、最初に登場する女性が誰かというオチがわかるショートショートのような構成。彼女のけなげさがいとおしい。
かまたきみこ
ASAHIコミックス全１巻 / 朝日新聞社
ジャンル：少女・ファンタジードラマ / 好み度：★★★★☆