著者の漫画修行時代というかプロデビューする前の青春日記のような漫画。
実際過去の経験を元にして描かれたエッセイ系だと思うのですが、その表現方法が独特。
主人公たる著者以外の周囲の人間が動物キャラ、本格的に漫画家をめざす前に勤めていた工場がつくるものはフィクションの物体、とまあ現実社会での経験をそのまま描かず、著者の妄想(心象)フィルターを通したような絵面なのです。その効果かどうか、昭和時代に存在したどこかけだるげというか邦画にたまに見られるたるーっとした雰囲気が充満しています。自叙伝だけど純文的大人の寓話のようなイメージもあるなあ。
一ページ目を読んだときかなりびっくりしました;街中の描写には普通に怪物や妖怪もどきが浮いてるし;しかしその描き込みは半端ではないです。すごいです。著者ってほんとに絵がうまい(線が綺麗で生きている)んだなあとしみじみ感じました。漫画家というより芸術家の気質なのかもとも。
絵面は独特ですがストーリーはいたって真面目。心情描写はほとんどなく淡々と、空から他の存在が主人公を見ているような感じの構成でした。同じ漫画家を目指す連中と切磋琢磨したりバカ騒ぎしたり語ったり、プロの漫画家のアシスタントとして働きつつ漫画スキルをあげたり。アシスタント報酬の相場の話はちょっと身につまされたかも。あそこで相場の説明が出来ないのが著者なんだろうなとふと感じたり。
それにしてもどうしてこう失踪日記と似たような装丁にするのか。売れた失踪日記と間違いもしくは続編と勘違いして買わせるためか。そこはかとなくあざとさを感じるのは私の心が狭いのか。
吾妻ひでお / 角川書店全1巻
ジャンル:エッセイ / 好み度:★★★★☆