いくつもの犯罪と悪運の伝説を持つ世界的に有名な犯罪王として、凶悪犯専用の海上刑務所に収監されたのは一見普通の少年。物語の主人公であるこの少年は、実は犯罪王本人ではなく、犯罪王のチップを埋め込まれほぼハメられた状態で変わりに逮捕されたというわけで。誰も犯罪王当人の姿を知らないということで身代わりが成り立ってしまった不条理コメディ。
少年本人はいたって小市民、誰にもやれるけど誰にもこなせない仕事に就き目立たず犯罪も規律も犯さず殺しはゴキブリしかしたことのない。とはいえ不条理な状況にあわてふためくでなく、自暴自棄になったりするでなく、達観しているというか諦めモードというか冷静かつそれなりに前向きに刑務所から出る方法を模索する。犯罪王として一目を置かれたり刑務所内の変わり者たちと会合したり、会った人間の中に渡された課題を行ったりする展開に至り、その中で、かつて憧れた悪を倒す正義のヒーローとしての高揚感が少年の中に芽生えていく。
周囲の都合で振り回された環境の主人公をはじめとし、アクションでなく理詰めや語りで展開していく構成はどことなく惹きつけられ興味をそそる。つっても話を通じて何を語りたいのかは奥が深そうでつかめないんですが；メインキャラごとに違う他者を傷つける、殺す名目というかポリシーというかが話の鍵の１つか。
小路啓之
ヤングジャンプコミックス改全４巻 / 集英社
ジャンル：青年・ブラックコメディ / 好み度：★★★☆☆