公団住宅あかとき星レジデンス。そこには地球人の生活に紛れ地球の調査をする異星人たちが住む。住人たちを巡る不思議で切ない恋愛と人間の物語。
舞台となる公団住宅の住人が体験する恋愛や人とのつながりを描くオムニパス形式のお話。1話目は仕事の縁で結婚した男性の視点で綴られる話で、結婚3カ月たったとき、妻となった人は自分は地球を調査しにきた異星人で母星に帰ることになったと告げられる。
1話目において最初から話の肝である設定を明かさず、地球人側の視点から、ちょっと事情が違う夫婦の危機と絆の深まりをゆったりと描きつつ、異星人云々が事実なのかどうかというミステリを魅せる構成は見事。
ネタばれすると異星人云々は本当で、彼らの母星は緩やかな衰退の危機に瀕しており移住可能な星を調査している。とはいえすぐに侵略というわけでなく移住するにも途方もない先のことというゆるい設定。ゆえにSFというよりは、毛色の変わった事情が背景にある、よく見られる恋愛を描いたお話といって差し支えない。恋愛の物語の中に、観察という要素が加わっているところがミソの1つか。観察というより客観的視点、といったほうがいいか。それは相手の行動のみならず、調査員自身の心情の揺れも含めてというところが深い。
1話目以後は異星人調査員側の視点が多いかな。学生同士、相手に先立たれた調査員、父子家庭と姉弟家庭の話。穏やかで切ない恋愛ものにひとひねり加えた物語の秀逸さにはうなるばかり。
犬上すくね
電撃コミックス全1巻 / アスキーメディアワークス
ジャンル:青年・ドラマ / 好み度:★★★★☆