ひとつめは木曜になく・さらば、やさしいゆうづる・なき顔の君へ・はたらくおばけを収録した著者初の短編集。
ひとつめは木曜になくは、毎週木曜日に人の苦悩などマイナス感情が一つ目の化け物として見えてしまう男子二人の話。他者の苦悩の原因を取り除こうと行動を起こす子と、起こさない子。物語の主格は起こさない子のほうで、ある日その子は化け物が見えなくなり、友人の方は変わらず見えたままという状況になる。見えたままの友人に対して、化け物が憑いた人間に対して、いろんな感情がないまぜになる心情描写が見所。
さらば、やさしいゆうづるは、母を早くに亡くしたため、食事の時のタブーとか下着の付け方といった社会通念というか一般常識みたいなことを知らずに成長した女子の話。彼氏に指摘されコンプレックスに苛まれる一方、昔から何かと面倒を見てくれた年上の幼馴染みの青年という身近な人間もいる。その青年に自分が一番欲しいものが出てくる箱を渡される。話の最後に青年の主人公に対する感情というか思いというかが暗喩されているところは絶妙。
なき顔の君へは、ある理由から双子の兄弟を厭い顔がなくなればいいと願った女子は、弟の顔がのっぺらぼうに見えてしまう。他者には普通なので自分だけという状況に戸惑うが・・。端から見たらやつ当たりのなにものでもないし指摘されても止まらない気持ちもわかる。一方で嫌われているとわかっていても姉に優しくしたい弟にもやるせない気持ちがわく。
はたらくおばけは、死後幽霊となった男子は、幽霊は会社員のごとく生者に対し働きかけをするものだと知る。ある種の人間ドラマであり、主人公と確執があったリアリストな父親との話がメインのよう。主人公の死因、主人公の幽霊会社員としての上司?の女性の過去とか切なすぎるだろう・・。
どの話も、世界が主人公にあまり優しくなく、劇的に変われるものでもない状況で各々がそれなりの解決とか折り合いとかをつける話なのかなあと。上手く言葉にできないけど::主題の肝だと思われる、良くも悪くも飾らない心情の吐露の描写が秀逸。
有永イネ
KCx(ITANコミックス)全1巻 / 講談社
ジャンル:少女・ドラマ / 好み度:★★★☆☆