物体に蓄積されたさまざまな人の感情・「炁(き)」の満ちた世界。炁を自在に繰れる炁祷師の少女・マイルスと彼女と共に在る男性ギガクを中心とした不思議な世界の日常と炁に関連する事件を綴った物語。
殺伐とした雰囲気はいまのところなく、ゆったりした雰囲気の中で展開されるSFファンタジー。
主人公をはじめとする人たちが住む世界では、その中心に存在する「小さな世界」から車や道具や機械などさまざまなものが浮いてくる。その物質は実体ではなくそうで在れと望まれた状態を再現しているものだという。その世界の人々は炁祷師が選定した物質を道具として使う。その物質が満足し空へ浮かび消え去るまで。
その世界に満ちている「炁」とは、物質に蓄積された、憎悪や無念や思い入れや愛情など明暗さまざまな人の感情を指している。感情の蓄積が膨大な場合は、その物質と共に人格のある人間のような姿に権化した「神」が出てくるという。主人公の少女はその炁祷師で、側にいる謎の男性・ギガクはその権化神。ギガクはかなり大きな権化神であり油断すると暴走するのでそれをコントロールできるのは主人公のみという設定。
炁の設定はツクモ神を元にしているのかな。複雑かつ興味深いSF設定のもとで展開される物語ではありますが、完全に理解できなくてもするっと世界観に入れる秀逸な構成。登場人物たちの関心ごとは実に日常的であるからか。
著者の話は暗い・鬱という印象しかないのですが、このタイトルは、バックボーンは確かに大仰ながら、その雰囲気はかなりあっけらかんとしています。わくわくする活劇と健康的なエッチネタをコミカルさとたまにシリアスなテンポで繰り回しているというべきか。
また、それまでの作品では性行為は罪もしくは暴力の延長という位置だったのに対し、コメディというか明るいというかそんな感じ。ギガクはとにかくエッチしたがりで主人公はしょうがないなあと思いつつの対応だし、ラブコメそのものな人間関係もあるし。ギガクのエッチしたがりの理由はうまいなあと思いました。
つーか1巻目はエロ話が多数なんですが・・このレーベルだからありなのか。でもまあ直接的な描写はなく、やるこたやってるらしいけど精神面では初々しいというか微笑ましいという印象を受ける展開。
鬼頭莫宏
fx コミックス1巻 / 太田出版
ジャンル:青年・SFファンタジー / 好み度:★★★★★おすすめ