収録作品(文庫版):ゲートボール殺人事件/銀のロマンティック...わはは
九州の田舎にある豆の木学園に就職した女性新任教師・広岡真理子は野球部の監督をすることになる。はじめは乗り気でなかった彼女だが、自分のノックで野球部員に賞賛を得たのをきっかけにがぜん乗り気になってくる。それまで地方試合1回戦突破が悲願だった野球部は、幸運な状況と、広岡監督の鬼のノックで得たカンペキな守備能力で代表になってしまう。甲子園での豆の木学園の快進撃を描いた物語。
普通の高校野球の漫画というのは選手主体で、彼らの心情とか技術を上げるための練習とかの描写が主ですが、この作品は主人公が監督であるせいか、「監督」の視点で野球というスポーツが語られています。また、作者特有の斜にかまえた女性ならではの視点も面白いと思います。広岡監督の采配っぷりと豆の木ナインの純朴な性格と一生懸命な描写が見所かと。まあ、野球の試合に関しては少々ご都合主義なところもなくはないですが、気にならない程度。少女漫画なので恋愛っぽい展開もちょっとあります(...あれは恋愛展開ですよね?)ラストはかなり印象に残る演出でした。すがすがしくさを感じ、読後感がとても良かったです。
「ゲートボール殺人事件」はライトミステリー仕立ての短編。
高校生・鈴菜とゲートボールクラブのお年寄りは試合に向けて空き地で練習していたが土地の所有者であるヤクザの組長が空き地の売却を決めてしまう。空き地を再び使えるように直談判しに組長宅へ入ったゲートボールクラブのお年寄りと鈴菜が見たものは撲殺された組長の死体だった...。
ゲートボールのルールが丁寧に説明されています。ゲートボールが普及し始めたころ、よくお年寄り同士でゲートボールにからんだトラブルが報道されていましたがこの作品を読んでなんとなく納得した記憶があります。一応推理もの...になると思うのですがミステリー性はほとんどなくて事件の真相を探る過程での人物関係の描写がメインっぽいです。オチというか真相は作者らしいなあと思いました。
「銀のロマンティック...わはは」はフィギュアスケートのお話。バレリーナの父を持つ更紗と元スピードスケーターの影浦は、スケートリンクで出会い、そこに居合わせ、彼らの才能を見初めたフィギュアのコーチに薦められ、フィギュアスケートのペアを組むことになる。
2人のスケーターとしての成長の描写をとおしてフィギュアスケートの世界がわかりやすく説明されています(今ではかなり変わっていると思いますが)。主人公たちの模索は、フィギュアは審査員の採点によって競われるため技術はもちろん心を打つ芸術性や情緒性がなくてはならない、しかしどちらに傾いてもいけない、ということを示しているようです。
物語が進むにつれ、独自のスタイルと目玉になる技術を得て順風だった彼らにどうしようもない問題が発生します。これは、スポーツ選手なら大なり小なり発生する問題なのですがそれを乗り越えるエピソードとラストの演出には感動せずにはいられなかったです。
川原泉
白泉社文庫全1巻/白泉社
ジャンル:少女・スポーツ・コメディ / 好み度:★★★★★/