70年代パリのサーカスを舞台に、サーカスの芸人とその客と家族たちの人間模様を濃密に描いた官能耽美ストーリー。
ブランコ乗りだったが、死んだ兄弟の陰をまとい、化粧で美しい素顔を隠したピエロ・トリノス。彼が所属するサーカスの客であり少年嗜好の外交官・オオナギはトリノスを買う。サーカスのメンバーの女性やジャグラーの青年、団長、トリノスに惹かれる青年とオオナギの妻、様々な人間たちが絡み合う情念と官能を描いた物語。
兄弟の死の影響か自我が虚ろな主人公を中心に人間ドラマを展開する中、サーカスという娯楽の伝統の過渡期と革新も描かれています。主軸は虚ろな主人公が、様々な人間と関わることで存在意義を見出し歩き出すまでの過程なんだろうな。その関わりがマイノリティつーかエロな展開なわけで。美麗で静謐、洗練された描写なので嫌悪感はないにしろかなり大人向け。70年代というちょっと古い年代でなければ出せない世情の雰囲気も印象的。
エロティックな雰囲気と展開なのですが即物的でないというか芸術的というかそんな空気が漂っています。うーん;うまく言えない;;
余談なのですが、幼少期、サーカスをはじめて見てサーカスの存在を知った数日後、大人の会話かテレビドラマかで、かつてのサーカスの団員は元孤児ばかりでその土地で売春をやることもあると聞いたことがありました。そのまんまな設定のこのタイトルに、当時のその話を聞いたわけのわからない感情がフィードバックされました。
実に個人的な見解なのですが、ある種の懐古のようなものを感じるちょっと特別なタイトルでした。
中村明日美子
Fxコミックス全2巻 / 太田出版
ジャンル:青年・ドラマ / 好み度:★★★★☆