赤の世界 びっけ

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現実と似た世界。ある戦争をはさんでの4つのオムニパスストーリー。同じ世界観で戦中・戦後と時代が入れ替わり立ち代り、各話の登場人物たちは何かしらのつながりがあるという構成。
赤の世界
戦争が終わった平和な時代。読書好きで他者を寄せ付けないタイプの主人公の少年は、いやいやながら参加したっ林間学校で気さくな少年とルームメイトになる。そんな中学校に参加した生徒の中に起こる奇行の謎を探るというミステリサスペンス風な話。事件の原因は戦争時に造られた毒だったわけですがこの結末によりこの本の物語群は、戦争に翻弄されつつ絆を深める人たちの物語の集まりだということがほのかにわかるようになっているしかけ。
朗読時間
戦後直後、婚約者のいる交換手の女性の話。婚約者は徴兵で目と足を負傷して帰ってきた。そんな状態の婚約者を変わらず愛しているものの介助が必要な状態に、また彼女に求婚する相手の登場に、沸きあがる様々な感情に苦悩する主人公。この描写がいろんな意味でリアルだったなあ。そんな中、婚約者の母に息子は死んだと告げられ、って展開。半生に近い時間の流れを描き主人公の孫は1話目の主人公の少年だということが最後にわかります。元婚約者と夫と孫の風貌におや?と思うところもありますが詳しくは語られず、想像の域を超えず。
鳩の時間
戦時中、伝書鳩の育成に携わる青年と彼を慕う鳩たちの話。鳩たちの心情描写も姿も人間のように描かれているのが特徴。鳩たちが(全部ではないですが)人の姿に描写されたシーンが多く青年と鳩と普通に会話しているシーンもあり。鳩の擬人化ものといえなくもない構成ですが趣は違う印象。
人間の鳩への愛情のみならず鳩の人間への愛情も描くための手法なのかなあと。鳩たちの潔さが印象的でした。
掌の花
終戦直後、ある特殊能力を持つがゆえに捕虜になった少女と監視役の軍人の青年の物語。当初青年は少女を恐れるものの少女がたどった軌跡が語られるたび青年の心情に変化が訪れ、という流れ。少女の移送が決まったときのシーンが印象的でした。またその移送も人道的な目的で優しいラスト、そして1話目の後の話へとつながるというきれいなまとめかた。

びっけ
ITAN×KC全1巻 / 講談社
ジャンル:少女・ドラマ / 好み度:★★★★★