冬のキリン・スピカ・ミドリの仔犬・はなのゆりかご・夕陽キャンディー・イノセンスを待ちながらを収録した血著者の短編集。
初期短編集、と銘打っているわけですが初期とは思えぬ完成度というかなんというか。絵柄もばらばらかなと思っていたのですが存外変わらない印象。
「冬のキリン」
フルカラー短編。父と息子は冬の動物園のキリンを眺める。父は元バイクラリーの乗り手で母は死去し今はいない。ふとあることに思い至りはらはらと涙を流す息子を父は慰める。息子の涙の理由と父の慰めの言葉の食い違いがせつない。
「スピカ」
副部長だが準レギュラーの野球部の少年と、バレエを続ける少女のお話。夢を断念せざるをえない状況におかれせめて自分ができることをと学業の補佐など部員のフォロー役に回る少年、将来性がないと再三やめるよう母親に咎められつつもバレエを続ける少女。
努力しているしなにより好きなことを続けたいだけのにやめたほうがいいと言われ続けることでおこる不安定な気持ち。母親にしてみればこどものためを思ってのことなんだけどね。それを鑑みて少女を助ける少年の行動と彼らのやりとりの描写が眩しい。そして少女と母親とのやりとりとラストのエピソードが爽快ですな。
「ミドリの仔犬」「はなのゆりかご」
父が死去し母が帽子つくり生計を立て幼い息子と娘を育てている。お父さんはいないけれど笑顔が絶えない優しい家族と彼らが出会った人たちのお話。童話っぽい世界観と物語といったかんじ。ほっこりする中に泣けるドラマあり。
ミドリの仔犬は兄妹が注文の帽子を届けにいったお金持ちの家に起こったミステリ。内容も好きだけど物語の最後に新しい家族がというオチが良い。はなのゆりかごは偏屈な発明家の老人の半生と彼に寄り添った妻のお話。望んだものはすでにあって当人だけが気がついていなかったという。あーなんか懐かしい夫婦像よなと思ったよ(笑)
「夕陽キャンディー」
なんかBL風味の男子学生2人のやりとり。学生時代のとある風景の一コマといったかんじ。
「イノセンスを待ちながら」
押井作品パトレイバー劇場版の南雲警部とイノセンス(甲殻シリーズ)のバトーさんに関する著者の思いを綴ったエッセイ。どちらも大好きで少なからずインパクトを受けた作品とキャラで、そうだよまさにそう!と読みながらうなづいてしまったという(笑)
著者の長編は読み応えがあるけど読み進めづらいところもあって個人的にこの短編集は人気のあるそれらより好きだったりします。まあもともと長編より短編スキーというのもあるけどね。
羽海野チカ
花とゆめコミックススペシャル全1巻 / 白泉社
ジャンル:少女 / 好み度:★★★★★