月夜のとらつぐみ 笠井スイ

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デビュー作から最新作まで、とのことですが高い品質の作画と清廉でリアルな雰囲気、ブレない質を保った作品集。花の森の魔女さん・月夜のとらつぐみ・水面の翡翠・仏頂面のバニー・遥かファンティエット・storyTellerStory2編・猫とパンケーキを収録。
「花の森の魔女さん」
幼い兄妹は、黒い噂を持つ魔女の家に探索に行く。思いがけず当人と出会った2人は家に招かれる。魔女と呼ばれる彼女は穏やかな笑みを浮かべる老女。兄妹は噂とは真逆の彼女の人となりを知る。当初警戒する兄と素直な心で魔女とあっさり打ち解ける妹の対比と立場がそのまんまで微笑ましい。
「月夜のとらつぐみ・水面の翡翠」
野鳥の擬人化短編その1。展開されるのは森の中で行われるとある野鳥の日常。
月夜のとらつぐみは、歌を奏でるとらつぐみと作曲家のおじさんのお話。触れるか触れないかみたいな面と向っていないさりげない交流の描写がツボ。とらつぐみのデザインも美しい。
水面の翡翠
かわせみの餌取り風景。水面の翡翠の擬人化描写と本来の姿の描写の切り替わりの構成がうまい。かわせみのデザインや仕草がなんかエロ可愛くてドキドキした(笑)
「仏頂面のバニー」
酒場に勤めるバニーのビビアンは笑わない。そんな彼女の笑顔を見たい4人の男性客は彼女を笑わせようと奮闘するが。4人の面子が若者から中年・壮年・老人と各種取りそろっているところがミソか。そしてオチがすばらしく笑えた。
「storyTellerStory」
嘘を吐く手伝いをするstoryTeller業の青年の元にやってくる人たちの物語。恋人に裏切られ心が壊れた娼婦に恋していた青年は彼女の元恋人のふりをする。嘘をついて生きねばならなかった女性教諭の、嘘を吐き続けるか嘘をやめるかの選択。2編の物語。似たような形式の人間ドラマですが、静謐に自然に心を揺さぶる展開。このシリーズが一番印象に残った作品でした。
「遥かファンティエット」
憧れていたウェイトレスは故郷のベトナムに帰るという。失恋に近い感慨を受けた少年は彼女と彼女の故郷に思いを馳せる。

「猫とパンケーキ」
妻に先立たれた男性は作りたてのパンケーキを窓から闖入した子供にもっていかれる。それが妻を亡くした男性と兄弟を弔ったこどもの出会い。猫だなんだと言っているのでファンタジーが入った話かと思ったらリアルな話だった。

笠井スイ
ビームコミックス全1巻 / エンターブレイン
ジャンル:青年・ファンタジー・短編集 / 好み度:★★★★★