庭をテーマもしくは舞台にした短編4編とデビュー作1編+その後日談と。
寓話のようでモノローグのようで、静かで何気ない情景の中で描かれる、人と人の物語群。出会い、別れ、恐れ、特別な自分以外の人間への思いの描写、多くを語らずしかし強い言葉が特に印象的でした。
「5月の庭」
極普通の高校生のもとに人間並みの人語を解す体長のコガネムシがやってきた。バイト先のコンビニで店内に迷い込んだコガネムシを救ったことがありその恩返しに来たらしいが。設定はファンタジーコメディだけど驚きの描写が少なくてそれが良い。等身大(?)コガネムシ君が茶をすすりながら滔々と語る彼らの生態はシュールかつ達観したものを感じる。主人公の言葉はコガネムシにとっては決して優しいばかりでもないけれど納得するシーンも熱いものがこみあげる。
「ファトマの第四庭園」
中世トルコ風な世界観。盲目の王に拾われ以後ずっと王の庭の庭師をしていた老人。王のそばに従い王の半生を見、王がまさに身罷ろうとしたそのとき彼のとった行動と胸に去来するものは。強くしなやかな彼らの絆というか繋がりが良い。
「地上はポケットの中の庭」
主人公の老人の男性は人が集まる行事が苦手で自分の誕生会ですら苦虫をつぶしたような顔をする。その理由は大事なものを失うことをことのほか恐れるから。てか年老いた現在、客観的に見ると結婚したくさんの子や孫たちに囲まれて慕われているというこれ以上にない幸福の中なのに当人一人がびくびくしているという。わからんでもないが損してるぜ(笑)
「ここはぼくの庭」
過去のある忘れられない出来事から疎遠にしていた故郷に6年ぶりに帰ってきた青年。過去の出来事とは海で波にさらわれた友達を助けなかったということ。その友達は結局助かったものの申し訳ない気持ちやら自己嫌悪やらぐるぐる回っていた。そしてその友達とばったり出会い・・。なんにしたとてぶつかってみるもの、か。
過去の心情描写と何気ない情景描写で物語の本質を綴るタイプの構成が印象的でした。
「まばたきはそれから」
デビュー作。留年ギリギリの成績・将来の進路を迷走という女子高生は中学の同級生で棋士の少年に輝きを見る。惑う女子の青春もの、なんだけどなんか独特だなあ。棋士の少年の純朴というか折り目正しい口調に萌え(笑)棋士の少年サイドの対局日誌も良い。
ちなみに表紙カバー裏(表紙じゃなく)に各作品のコメントが絵付きで書かれていますのでお見逃しなく。語彙がないのでこのタイトルの良さが伝えきれないorz
田中相
KC×ITAN全1巻 / 講談社
ジャンル:少女・ファンタジー / 好み度:★★★★★