「海岸列車」「ザ・グレートエスケープ00」「キッス」「マーガレット」「あれ地」を収録した著者の短編集。どの短編もタイプは鮮烈かつリアリティのある印象的な話ばかりです。
「海岸列車」
ヤクザの争いで間違われ殺された祖父。祖母と少年の怒りと哀しみを鮮烈に描いた復讐劇。突然襲い掛かる理不尽な暴力。それ以後も続く災厄。祖母が拳銃を調達しようとしてもだまされ偽物をつかまされたことや少年がいじめを受ける場面、改造銃をひそかにつくる場面には鮮烈な痛みに身が縮む感情がわきあがりました。痛々しい描写が多いですがいろんな意味で傑作。
「ザ・グレートエスケープ00」
警官が銃を撃っている。見ていた一般人に撃ってみろと言う。真っ裸の男が女を追いかける。そんな光景を目にしながら青年はタクシーに乗る。
なんか壊れた行動の人たちばかりと思っていたらどうもあとちょっとで世界が終わるってことのよう。あわてるわけでなくどこかさっぱりした顔で普通だったら犯罪なことをやっている人々の姿にはどこか寂寥感を感じます。
「キッス」
ちょっとしょっぱい少年たちの青春の一ページ。それ以上でもそれ以下でもなく。叙情性の高い邦画の雰囲気がいいですね。
「マーガレット」
大家族で暮らす思春期の女子高生の少女。テレビ局が家族の番組を取ることになるが。テレビ受けするために極端でデリカシーの乏しい演出への憤り、家族に対する悲喜こもごもを描いたお話。主人公の複雑な心情はなんとなく共感してしまいます。
「あれ地」
都会で生きるOLの日常と妄想の描写。静かに、現実と想像の境目がいい感じに混ざってる感じが好きでした。
初期でこれだけの力量の話が描けるってやっぱすごいなーと思う次第。
室井大資
ハルタコミックス全１巻 / エンターブレイン
ジャンル：青年・ドラマ / 好み度：★★★★★