ある女性の死の謎と「ウツボラ」という小説を巡るサスペンスミステリ。
久方ぶりに新しい連載を始めた人気男性作家は、警察から、ある女性がビルから飛び降りて死んだという連絡を受ける。作家は死んだとされる女性の名を聞き慌てて警察に向かう。
顔が判別できず死体から身元が確認できない状態。死体が唯一所持していた携帯電話の持ち主は「朱」という人物で、着信履歴には彼女の「妹」と作家の番号のみだったという。
そして身元確認のために来た作家は、朱の双子の妹と名のる朱と瓜二つの桜という少女と出会う。ある懸念から作家は桜に接近しようとし桜も作家に近づいていく。
状況の描写からどうも作家は盗作をしているようでその本来の著者は朱のよう。しかし朱も桜も作家を責めるというより望んでいるようで。また、死体は本当に朱なのか、桜は本当に朱の妹なのか(あるいは朱自身なのか)などといった存在の不明瞭さという謎もあり。
「ウツボラ」という小説を通じて底なし沼のようにずぶずぶと深くなっていく作家と桜、個人的な過去からこの事件を躍起になって探ろうとする若い刑事、何も知らず純粋に作家を慕う作家の親戚の少女、作家の盗作を知り作家の親戚の少女が好きな編集者の青年。彼らが織り成す澱んだ泉のような雰囲気の中描かれる人間模様。純文学の描写のようだなあと。
ミステリとしても人間描写の物語としても秀逸、趣き深い雰囲気と魅力を持つタイトル。
中村明日美子
fxコミックス全2巻 / 太田出版
ジャンル:青年・サスペンスミステリ / 好み度:★★★★★