「矢継ぎ早のリリー」「鞠めづるヒトビト」「或ル婦人」「シスター・シスター」を収録した著者の短編集。
「矢継ぎ早のリリー」
吸血鬼の男性ヴィクトルと彼と契約を交わしたとされる少女アネット、アネットの母親の遺言の執行人たちの物語。少女アネットと契約を交わした吸血鬼の男性の物語と、リリーたち遺言執行人の仕事の行使という2つの軸をさりげなく融和させた内容。
施設を抜け出した不遇な少女アネット、末期の水ととってほしい相手を探していたヴィクトル。2人の心情描写と彼らの状況を客観的に語る執行人たち。静かにゆっくりと真綿でくるむように心を鷲づかみにされそして染み渡るドラマの描写がツボでした。
「鞠めづるヒトビト」
平安時代の蹴鞠に没頭する人々の話・・・なんですがノリはほとんどサッカーものと言っていいかと(笑)雅な賞賛の言葉と華麗な蹴鞠の描写だけどノリはコメディ。この絶妙なノリを作り出すセンスがすごい。
「或ル婦人」
おそらくは明治か大正あたりのレトロな時代の日本が舞台。この時代の純文学を彷彿とさせる雰囲気。とあるいわくのある未亡人に金を借りに来た青年。劇的なものはないし現実でもありふれたことであろう詮方ない悲しい事柄。「印象に残る」という言葉が実にしっくりくる話でした。当人は望んでいないし特殊な力があるでなし、でもなぜか周囲がこうなる人っているんです。
「シスター・シスター」
ファンタジーシリアスドラマ。有事の際は私を捨てざるを得ない立場の公人の悲哀と姉妹の絆がテーマ?的外れかも;けっこう凝った宗教というか巫女というかファンタジー設定ですが端的に説明されてするっと話に入れる構成が見事。
収録されている短編が全てジャンルも傾向も違いかつクオリティが高いお勧めの短編集。語彙のない人間なので読んでみてくださいとしか言えませぬ。
それにしても普通ジャンルは違えどカラーというか傾向って大体似るものなのですがこの著者はそれが見受けられない。本当にセンスや構成能力など才能の引き出しが多い人なんだなあとしみじみ感じます。
D.キッサン
ゼロサムコミックス全1巻 / 一迅社
ジャンル:少女・ファンタジー他 / 好み度:★★★★★